- 公的機関・その他
学校法人日通学園 流通経済大学
業務パッケージをSINET経由で、クラウド化。接続に「さくらのクラウド」を採用
- クラウドサービス(IaaS)
株式会社JX 通信社では、SNSを中心に複数の情報ソースの中からAIを用いて自然災害・事件・事故・情報漏洩・SNS炎上など様々なリスク情報を提供するサービス「FASTALERT(ファストアラート)」を報道機関やBCP導入企業、自治体などに対して提供しています。しかし自治体に提供するサービスでは、地方公共団体情報システム機構(以下J-LIS)の管理運用するLGWAN(総合行政ネットワーク)を利用しなくてはならないなど一部制限がある場合もあります。そこでFASTALERTを自治体向けに、さくらインターネットが提供している「LGWANコネクト」を利用しサービスのアップデートを行いました。
株式会社JX通信社は、「記者ゼロ人の通信社」として2008年1月10日に創業しました。現在では、報道機関運営のニュースアプリで国内最大規模となる「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」のほか、NewsDigestの500万ユーザーから寄せられる精緻な位置情報を含む情報とTwitterをはじめとする複数のSNSから得られる情報を基盤としたAIリスク情報配信サービスFASTALERTを運営しています。
FASTALERTはもともと報道機関の取材用として開発されたサービスです。以前は、事件・事故、災害などの情報は、TwitterなどのSNSを手動検索するか、警察や消防に電話をかけて集めていました。しかしながら、これらの情報収集作業は機械に任せることによって自動化が可能です。「報道機関には人にしかできないことに集中してほしい」という思いから情報収集作業を自動化するサービスとしてFASTALERTを開発されました。
また、FASTALERTで提供される事件・事故、災害等の情報は報道機関以外の市区町村などの自治体でも必要とされており、FASTALERTを自治体向けのサービスとしても拡張していこうと考えました。
しかし、そこに立ちはだかったのが、LGWANの壁でした。LGWANとは、J-LISが管理運用する、自治体の相互接続を実現する行政専用の閉域ネットワークです。
LGWANはインターネットから切り離され、独立した高度なセキュリティを維持している閉域網であるため、一般のインターネット回線を利用してLGWANの環境に接続することはできません。
また、民間企業がLGWANの環境でサービスを提供するには、J-LISの規定に沿った方法でインフラを構築し、審査を経て認可を受ける必要があります。
そこで2021年8月からFASTALERT事業責任者に就任した藤井氏が登場します。同氏は前職で、政府や自治体の利便性・効率性をテクノロジーで解決するGovTechベンチャーのCOO(最高経営責任者)をしていました。前職でも地方自治体へサービスを提供しておりLGWANとの接続を検討したこともあったため、JX通信社に移籍後も常に「LGWAN上でサービス提供できないか」と考えていました。「民間企業が利用できるLGWAN接続サービスは、非常にコストがかかるタイプが多く、ベンチャー企業が使える代物ではありませんでした。そこで他の方法はないのか模索していたところ、さくらインターネットが新たなサービス『LGWANコネクト』をローンチしたことを知ったのです」と藤井氏は話します。
LGWANコネクトの詳細を確認してみると、接続数の縛りがないことやインフラ設計の面でとても柔軟性が高いサービスであることがわかりました。そこで「FASTALERTに接続するLGWAN接続サービスはLGWANコネクト一択だ」と社内で推薦したのです。
LGWANコネクトを推薦した理由の1つは、LGWAN-ASPファシリティサービス(J-LISの認可区分の一つ)に登録済みのデータセンターとして「石狩データセンター※」でサービスを運用していることだったと言います。
「FASTALERTは防災情報も提供していますので、データセンターが主要報道機関の集結している首都圏にあることは避けたかったのです。北海道でも大規模停電があったことは記憶に新しいですが、そのとき、石狩データセンターでは60時間に渡り非常用電源設備を稼働させ、サービスを提供し続けたことは業界内でもよく知られています。データセンターに重要設備を置いていることは、自治体職員に対して信頼性が高いことについての説得力を高めるポイントにもなると考えました」と藤井氏は話します。
※LGWANコネクトは石狩DCのみ対応
FASTALERTにLGWANコネクトを導入したことで、大きく2つのメリットが生じました。
1つ目は、自治体職員がFASTALERTを利用しやすい環境になったということです。「地方自治体では、LGWAN環境とインターネット環境は端末もネットワークも分けられているため、自治体のポリシーによっては、インターネット上の情報は、自席のLGWAN環境からワンクッション挟み仮想環境経由で閲覧するか、自席を離れて専用のインターネット接続端末でアクセスするしかない場合があります。しかし、LGWANコネクトを利用したFASTALERTであれば、すぐに自席で情報を確認することができます。このことで、商談がスムーズになったという印象があります」と藤井氏は話します。
2つ目は、ビジネス拡大に成功したことです。「現時点で同様のサービスを展開しLGWANへの接続にも成功している企業はJX通信社しかありません」と藤井氏は胸を張ります。LGWAN接続ができたことにより、多くの自治体へサービス提供が可能となりビジネスチャンスが広がりました。「ハードルの高いLGWANにFASTALERTが対応したことが弊社の技術力の証にもなっていますし、サービスのアピールポイントにもなっています」(藤井氏)。
「LGWAN-ASPに登録されているサービスの一覧はJ-LISのホームページで公開されています。自社の競合サービスの対応状況もある程度わかると思うのでぜひチェックしてみてください」と藤井氏は言います。
近年、自治体では行政のオンライン化を進めるデジタル・トランスフォーメーション(DX)や働き方改革のために様々なサービスを導入しようという機運が高まり、専門のCIO(情報システム統括役員)がいる自治体も増えてきているようです。
JX通信社は新たに22億円の資金調達を実施しました。出資会社には損保会社や政府系投資機関も含まれており、政府の「国土強靭化年次計画2021」でもAI・SNSによる災害情報収集について言及されるなど、同社のサービスへの期待は官民問わず高まっています。「この増資により、JX通信社はより一層、公益性の高いサービスを提供する企業を目指しています」と藤井氏は同社の今後の展望を語ってくれました。
最後に今後のさくらインターネットとLGWANコネクトに対しての期待を語ってくれました。「LGWAN自体のネットワークは東日本と西日本にまたがっているので、北海道の石狩データセンターだけでなく、西日本にも接続拠点を持つということを検討していただけると嬉しいです」と藤井氏はLGWANコネクトへの今後の要望を語ります。災害などリスク情報を扱う事業者としては全てにおいてシングルポイント(その箇所が停止するとシステム全体が停止する、システム上の弱点)を作らないことを目指しているため、東西でのLGWANコネクトの多重化に期待を寄せているとのことです。
取材日時:2021/8/26