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株式会社オービックオフィスオートメーション
基幹システムの運用にはIaaSではなく専用サーバが向いている理由
- クラウドサービス(IaaS)
- 専用サーバーサービス
半導体設計の開発環境をクラウドサービスとして提供するCDC研究所。 同社は、2014年11月に本番稼働を開始したサービスのクラウド基盤にさくらインターネットの「さくらの専用サーバ」を採用しました。採用の決め手は、「性能」「セキュリティ」「コスト」の優位性です。
2013年9月、日本における「半導体設計クラウドサービス」を実現するために、国内の半導体関係者がオープンな立場で結集し、一般社団法人クラウド・デザイン・コミュニティが設立されました。同法人は、クラウドベースの半導体設計環境を提供することを目的に非営利で活動してきましたが、実際にサービスを提供するには外部資金の導入が不可欠です。そこで2014年5月、一般社団法人のツール整備についての理念を継承しつつ、その実現に向けた営利組織として、株式会社CDC研究所が設立されたのです。
同社設立の経緯について、CDC研究所 代表取締役 藤井滋氏は次のように説明します。
「日本の半導体産業はこれまで、IDM(Integrated Device Manufacturer)と呼ばれる自社で設計から製造、販売までのすべてを行う垂直統合型メーカーが牽引してきました。しかし世界的には水平分業が進み、設計は米国、製造は台湾、組み立ては中国という形で日本のIDMが包囲され、ビジネス面で厳しい状況が続いてきました。でも、日本の製品は決して負けたわけではありません。そこで日本の半導体産業の復活を目指そうという思いが、法人設立の大きな背景となりました」
日本のIDMがリストラを進めた結果、いまは多くの設計エンジニアが外部に出ています。そこで問題となったのが、半導体設計に欠かせないEDA(Electronic Design Automation)ツールの確保でした。
「EDAツールは、安価な製品でも数百万円はするので、日本の中小企業や個人事業主はとても購入することができません。つまり半導体設計ができる人はたくさんいても、作ることができないというのが現状でした。そうした状況を改善するために、高価なEDAツールを会員間で共有して使える設計開発環境をクラウドベースで提供しようというのが、当社の設立主旨なのです」(CDC研究所取締役 CTO 井上善雄氏)
会社設立の目的を実現するために、CDC研究所では発足直後からクラウド基盤の調査を開始しました。海外のパブリッククラウドから国内のレンタルサーバーまで、多くの事業者のクラウドを比較検討したようです。
「EDAツールをクラウドで構築するにはテクニカルな問題がいくつかあり、それを考慮した上で有力な候補に挙がったのが、Amazon Web Services(AWS)でした。しかし調査を進めていく中で、AWSでクラウドサービスを提供するにはさまざまな問題点があることがわかりました。LSI設計では膨大なデータが発生します。ストレージコストが最大の問題でした。合わせて日本の半導体産業が対象なので、設計データが海外に置かれてしまうことは避けなければなりませんでした。そこで日本国内のみにデータセンターがあることを条件としたのです」(井上氏)
この時点でデータセンターが海外のみにあるパブリッククラウド事業者は候補から外れ、最終的に残ったのがさくらインターネットの「さくらの専用サーバ」です。
「さくらインターネットを採用した決め手は、性能とセキュリティ、コストの3つです。EDAツールで扱うデータは非常に大きく、高性能なハードウェアが必須です。また半導体設計ではデータの守秘性が求められるので、セキュリティが強固であることも必要でした。さらに中小企業や個人事業主に安価な利用料金で使ってもらうためにも、トータルコストはできる限り抑えなければなりません。この条件をすべて満たしていたのが、さくらインターネットだったのです」(井上氏)
こうして、CDC研究所のクラウド基盤は「さくらの専用サーバ」に決まり、2014年5月には、基礎調査として仮システムの構築とテストを行う評価用ハードウェアが用意され、クラウドサービス提供に向けたシステム開発が始まりました。
「EDAツールに適したクラウド環境を構築するために、専用サーバーの上にOpenStackの技術を適用しました。細かいチューニングと実際の使い勝手の改善に多くの時間を費やし、2014年12月に本番稼働を想定したテスト運用を開始しました」(井上氏)
システム開発には、REVSONIC株式会社が全面的に協力しています。米国・ギリシャのエンジニアを含めて、世界規模で対応。クラウドの管理ツールはAWS向けに提供されているものをカスタマイズし、仮想マシンでEDAツールが稼働する環境が構築されました。
テスト運用を経て、2015年3月にはCDC研究所の賛助会員のうち、EDA利用会員として登録したエンジニア向けに正式サービスがスタート。選択可能なEDAツールは複数用意され、製品のライセンスはCDC研究所が一括管理する仕組みになっています。
現在は、クラウド制御するためのコントローラ用、実際の仮想マシンが稼働するコンピュータノード用に合計8台の専用サーバーが用いられています。こうしたリソースの活用を通じて、CDC研究所は、「さくらの専用サーバ」、およびさくらインターネットのサポート体制を高く評価しています。
「さくらインターネットには、最初に評価用ハードウェアを無償で提供してもらうことができ、それによってシステム開発とテストを加速させることができました。稼働を開始したクラウド基盤は、インターネット経由の半導体設計環境ではあるものの、大きなストレスを感じることなく設計作業が行えます。またパブリッククラウドではなく、専用サーバーによるプライベートクラウドにしたことで、EDAベンダーからの信頼を高めることもできました。このように専用サーバーの性能・機能とEDAベンダーの協力により、まったく新しいビジネスモデルの提供が開始できました」(井上氏) 今後はさくらインターネットと協力しながら、ネットワーク速度の向上、CPU、メモリ、ストレージなどハードウェアの増強、協力EDAベンダーや利用可能なEDAツールの種類を増やすといった施策を進める予定です。そして、これらの施策を通じて、さらなる利用者増を目指すとのことです。
最後に、藤井氏は、「日本の半導体産業は、IDMの時代から“小さな大企業”の集合体へと変わりつつあります。そうした“小さな大企業”を支えるクラウド基盤として成長させていくとともに、コミュニティを創出していきたいと考えています」と、抱負を熱く語られました。
本記事で紹介している「さくらの専用サーバ」は現在、新規お申し込み受付を終了しており、後継サービスとして「さくらの専用サーバPHY」を2020年7月28日より提供しています。