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ユミルリンク株式会社
ユミルリンク社のクラウド型メール配信システムを支えるさくらのデータセンター
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月額固定のサブスクリプション方式で、手軽に利用できるスーパーコンピュータを提供するエクストリーム-Dは、さくらインターネットのスタートアップ支援プログラムを活用して石狩データセンターのファシリティを無償利用。自社の強みを生かし、クライオ電子顕微鏡の画像解析(単粒子解析)のためのプラットフォーム構築という新たなソリューションをKEKに共同提供しています。
現代のコンピュータは数十年前に比べると桁違いの性能を備えています。しかし、扱える情報量が増えれば増えるほど、処理すべきデータ量も増えていくものです。いま、機械学習やディープラーニング、シミュレーションやビッグデータ分析など、通常のPCやワークステーションでは扱いきれない大量の計算をこなすスーパーコンピュータのニーズが高まっています。
しかし、スーパーコンピュータは高価で運用が難しく、大半の企業や研究者にとってそう簡単に手が出せる存在ではありませんでした。それを、月額固定のサブスクリプション方式で手軽に利用できるサービスとして提供しているのがエクストリーム-Dです。同社の「XTREME-Stargate」は、さくらインターネットの石狩データセンター内に構築したベアメタルクラウド上にハイパフォーマンスコンピューティング環境を構築し、これまで門戸が限られていたスーパーコンピュータ利用者の裾野を広げています。
エクストリーム-DのCEOを務める柴田直樹氏は、「XTREME-Stargate」を提供する背景についてこう語ります。
「1システム億単位の導入コストがかるスーパーコンピュータを購入できるのは、大企業の研究所や大学、国立研究所など非常に限られた組織です。そこで、われわれがお客様に代わってスーパーコンピュータを購入し、複雑なミドルウェアやソフトウェアのインストール、運用、サポートも含めて月額固定のサブスクリプション方式で提供することで、研究開発の加速、ひいては国際競争力の向上に貢献したいと考えています。」
エクストリーム-Dは当初、パブリッククラウド上にスーパーコンピュータ環境を構築し、提供していました。しかし、ハイパーバイザーを介するアーキテクチャではパフォーマンスを追求する上で物足りない部分があったことから、独自のベアメタルクラウドを構築することに決めました。
ただ、「スーパーコンピュータは、車で言うならばF1マシンです。F1マシンを停められる駐車場がどこにでもあるわけではないのと同じように、スーパーコンピュータを動かせるデータセンターも、発生する熱や機器の密度を考えるとどこでもいいというわけにはいきません」(柴田氏)。かといって、理化学研究所の「京」のように、専用の建物を丸ごと建設するのは非現実的です。
そこでエクストリーム-Dがクオリティとポテンシャルを満たす設置場所として選んだのが、さくらインターネットの石狩データセンターでした。まだ雪の舞う2018年4月、建設関連の知識も持つ柴田氏が現地に足を運び、物理的な基盤や梁、発電機といった構造物はもちろん、データセンターの周辺環境も含めてチェックし、「ここならば置ける」と判断してのことでした。
しっかりとしたファシリティに加えて、「いいものがあればどんどん採用し、変えていく」というさくらインターネットの企業文化やサービスへのこだわりも評価したそうです。
「さくらインターネットといえば外気冷却というイメージがあり、われわれもそう思っていました。けれど、必ずしもいいとは限らないとなったらドラスティックに変え、もっといいものを取り入れていく姿勢に感銘を受けました」(柴田氏)
エクストリーム-Dの取締役製品開発担当 奥野慎吾氏は、石狩データセンターのサポート体制について「スーパーコンピュータの中のことなら詳しいという自負がありますが、データセンターのこととなると知らないことも多々ありました。さくらインターネットの方には、何か問題が起きそうなときには『ここに気をつけたほうがいいですよ』と、プロアクティブにサポートしてもらいました。また、機器搬入時に足りない機材があったときには、ストックルームの中からすぐに在庫を出してくれるなど、柔軟に対応していただきました」と振り返ります。
こうして、石狩データセンターに構築したベアメタルクラウド基盤でサービスを開始してから約半年。基本的な運用タスクはリモートハウジングサービスで対応する形ですが、データセンターに常駐しているスタッフの対応も申し分ないといいます。
「作業の際には、何か1つ操作を行うたびに写真を撮って『今、こうです』とSlackで実況中継しながら対応してもらっています。サポートのためのSlackのチャネルには20名ほどの方が入っていて、皆に見守られている感覚があります。カスタマイズされたアイコンや絵文字も相まって、カジュアルに、近い距離感でコミュニケーションができるのも魅力です」(奥野氏)
実はエクストリーム-Dは、さくらインターネットが展開するスタートアップ支援プログラムのサポートを受け、一連のサービスを1年間無償で利用しています。
一般にスタートアップ支援というと「出資」という形が思い浮かびます。ですがその場合、どうしても出資元の意向に左右されがちで、起業時の本来の目的がぶれてしまいかねません。「技術提携」という名目でも同様の懸念があります。
「さくらインターネットからの支援は、石狩データセンターのリソース提供と技術サポートです。われわれはその上で自由に開発したり、お客様へのプレ解放を行うことができました。このように自由に使える形での支援は非常にありがたかったです。もしかすると田中社長ご自身が苦労した経験があるから、スタートアップが成長するために本当に必要なものが何かわかっているのかもしれませんね」(柴田氏)。
エクストリーム-Dは、このスタートアップ支援を最初の一歩として生かしつつ、一方的に支援を受ける形に終わらせず、パートナーとして両社が互いにできることを組み合わせ、新たなサービス展開ができればと考えています。
その第一弾が、筑波にある共同研究利用施設、高エネルギー加速器研究機構(KEK)への提案です。KEKには、タンパク質などの生体高分子の立体構造を解析できる最新鋭のクライオ電子顕微鏡があり、ライフサイエンス分野に携わる国内の研究機関や大学の研究者らに共同利用施設として提供し、構造生物学分野の研究に貢献してきました。
問題は、クライオ電子顕微鏡で撮影した動画像データの処理・解析でした。動画像であるために従来の電子顕微鏡に比べて1ファイル当たりの容量が非常に大きい上、画像処理に画像処理を重ねて数十万から数百万枚の二次元粒子画像から高分解能の三次元構造を決定する「三次元構造再構築」作業には、一般的なワークステーションなどとは桁違いの処理能力が必要となります。 近年のブームを受けてクライオ電顕法を導入し始める研究グループが急増していますが、自分たちで画像データを処理する環境を持てないグループが多く存在するのが現状です。
エクストリーム-Dでは、こうした課題を抱えている施設利用者を多く持つKEKに対し、さくらインターネットとともに「XTREME-Stargate」を提案し、一連の画像処理に適した環境を提供しています。最初のトライアルとして、20数名を対象とした講習会において参加者それぞれに高度な解析環境を提供すべく「XTREME-Stargate」が使用されました。通常のレンタルサーバーなどではほとんど不可能であった規模の解析環境をごく短時間に作成し、安定的に利用できたことで、当該分野におけるクラウド利用の可能性を十分に示す事ができました。今後は「On the Fly」という形式で、撮影したそばからどんどん解析に回す仕組みも実現し、生体高分子をうまく撮影できたか否か、すぐに再撮影が必要か……といった判断を素早く下すことも可能にしていきたいと考えています。
クラウド基盤を一定期間無償で使えるスタートアップ支援サービスは他にもありますが、その多くは「期間が終われば、はい、さようなら」と関係が終わってしまうものばかり。ですがエクストリーム-Dは、支援を受けたスタートアップ企業が「ギブバック」し、互いに価値を提供しながら社会貢献していく、そんな関係をさくらインターネットと築いていきたいといいます。