- 公的機関・その他
学校法人日通学園 流通経済大学
業務パッケージをSINET経由で、クラウド化。接続に「さくらのクラウド」を採用
- クラウドサービス(IaaS)
公益社団法人自動車技術会(以下JSAE)に所属する「国際標準記述によるモデルベース開発技術部門委員会」は、さくらのクラウドを利用して、国際標準に基づいて構築したモデルを会員企業が利用できる環境を構築しました。JSAEがさくらのクラウドを選択した理由は、インフラが提供されるだけではなく、ユーザ限定の情報を保護するために必要な環境の構築もサポートできるからです。
JSAEは、1947年2月に「自動車に関わる科学技術の進歩発達を図り、もって学術文化の振興及び産業経済の発展並びに国民生活の向上に寄与する」(同会定款より)ことを目的に設立された学術研究団体です。今回、さくらのクラウドを利用して、会員向けのサービスを構築したのは、同会の「国際標準記述によるモデルベース開発技術部門委員会」(以下「前掲委員会」)です。
現在、自動車業界ではスマートファクトリーで代表される製造工程でのデジタル化や開発におけるモデルベース開発(MBD)などの実用化が進んでいます。これに並行して、デジタル化の長所である再利用性や利便性を活用するために国際標準化が進展てきています。前掲委員会の幹事である辻公壽氏(株式会社デジタルツインズ代表取締役社長)は、「デジタルデータは蓄積すればするほど、指数関数的な効率化を図ることできます。そこで、データの再利用性や流通性を保証する国際標準に従ったデジタルデータ基盤で作り上げることが必要。最近マイクロソフトオフィス以外のオフィスデータでもワープロや表計算の書類を共有できる様になってきている、これはそれぞれのソフトが国際標準のオープンドキュメント(ISO/IEC 26300)に準拠するようになったから。国際標準の多くはITU(国際電気通信連合)、ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)などで定められています。MBDも例外ではありません」と述べます。
前掲委員会の働きかけにより共同利用可能なモデルが作成されています。しかし、ただ作成するだけでは大きな価値は生まれません。そのモデルを実際に共同利用することでイノベーションにつながり、大きな価値が生まれることになります。そのため前掲委員会では、共同利用のためのプラットフォームを求めていました。
辻氏は「作成したモデルをCD-ROM等のメディアで共有する方法もありますが、動作させる環境を保証しないとうまく動作しなかったり、良い結果が得られなかったりします。個社の環境を共有して複数社で協業するのは現実的にはセキュリティなどの課題もあり運用は難しい。一方クラウドで協業の場合、必然的に同じ環境下での活用となりますし、限られた空間だけで協業を行えばセキュリティのハードルは下がります。また個社間では進めづらかった協業によるイノベーションのメリットは大きい」と共有環境としてクラウドを選択した理由を説明します。
クラウドを選択した理由はもう一つあります。それはインターネットにつながっているという特質から、いつでもどこからでも接続できるということです。「同じ場所に集まらなくても共同作業ができること、海外の事業者と共同すれば一日中作業が進捗するなどクラウドのメリットは計り知れません。コロナ禍により人の移動の制限のある今、経産省のモデル開発に関する補助事業を進められたのもこの仕組みのおかげです」(辻氏)。
前掲委員会がさくらのクラウド上に構築したプラットフォームを現在6社が試行しています。それぞれのサーバに参加企業は相互にログインすることができます。サーバ内にはモデルをシミュレーションするアプリケーションがあり、リモートデスクトップ上のブラウザ内で利用できます。企業ユーザ間で公開されるファイルには、クラウド上のファイル共有サービスサイトを利用してアップロードできるようになっています。
シミュレーションサーバもファイル共有サービスサイトもVPNで接続しますが、ユーザ側の接続環境は選びません。リモートデスクトップ環境でシミュレーションを行うことと独自サイトでファイル共有を行うことで、ユーザ限定の情報が外部に流出しないようになっています。
「ものづくりの世界には、各社が必要なものだけを持ち込んで自社の製品を試す試験場があります。私たちの委員会が用意したプラットフォームも、各社が必要なデータだけ持ち込んで、様々なシミュレーションを行う『試験場』なのです」と辻氏はたとえます。
プラットフォーム構築の検討は2018年8月に始まりました。辻氏は、前職のトヨタ自動車時代にさくらインターネットを利用したことがあり、今回のプラットフォーム構築においても、まずさくらインターネットに相談したと言います。「さくらインターネット側からインフラ環境だけでなく、私たちの委員会が求めるセキュリティやネットワークの要件を満たすミドルウェアも開発するとの申し出があったので、他社には相談せずさくらインターネットにお願いすることに決めました」とサービスプロバイダーの選定理由を振り返ります。
プラットフォームの実装は、同年11月末に着手されました。環境構築(OSインストール、VPN設定、認証設定等)およびミドルウェア(ファイル転送等)開発は、さくらインターネットのグループ会社であるビットスターが担当しました。実装作業は約3カ月で完了し、2019年3月にサービス開始となりました。当初はネットワーク面での問題もでましたが、ビットスターとさくらインターネットが迅速に対応し、収束させたといいます。
現在、インターネット協会の傘下、4社1自治体が関わるスーパーテレワーク構想が立ち上がっています。クラウド上での経済活動と企業間連携を実現し、地方創生を目指すプロジェクトであり、辻氏(デジタルツイン)およびさくらインターネットも参画するものです。今回のプラットフォーム構築で培った技術は、このプロジェクトでも活用されることになっています。