- 公的機関・その他
国立大学法人九州大学
パブリッククラウドをベースにホスティングサービスを構築。さくらとビットスターが細かなニーズに応える
- クラウドサービス(IaaS)
国立情報学研究所(NII)は、SaaS型の共用リポジトリサービス「JAIRO Cloud」を オンプレミスの仮想環境からさくらのクラウド上へ移行し、運用を開始しました。 JAIRO Cloudを使って大学や研究機関で発生するシステム構築や管理コストを軽減し、各機関が研究活動に注力できる環境整備を推し進めています。
「JAIRO Cloud」は、学術情報(学術雑誌論文、学位論文、研究紀要、研究報告書)などを格納し、公開する機能を持つ「機関リポジトリ」のSaaSサービスです。大学や研究機関はJAIRO Cloud上で独立の機関リポジトリ環境を運用できます。同サービスは2012年4月から運用を開始し、当初NII内のプライベートクラウドで運用していました。その後、2015年11月にさくらのクラウドに移行しています。
JAIRO Cloud普及の背景として、学位規則改正によって2013年4月から博士論文のインターネット公開が義務化されたことが挙げられます。「リポジトリの移行作業は各利用機関のシステムリプレイスのタイミングによるところもありますが、月に10機関程度のペースで増えています」(NII 加藤氏)。
パブリッククラウドへの移行を検討した1つ目の理由は法定点検による停電です。「停電によってサービスが止まってしまうと、利用機関に大変なご迷惑をおかけしてしまいます」(NII 山地氏)。2つ目の理由は運用・保守のコストです。「ハードウェア周辺の面倒を見ないだけでも大きく負荷が削減できます。保守はメーカーに依頼していますが、全くの手放しとはいきません。他のやるべき業務に集中できることは非常に重要で、心の負担が減ることがありがたいです」(NII 三浦氏)。
3つ目の理由はクラウド利用の良い先行事例を作ることでした。「文部科学省からクラウドサービスの積極利用を推奨する話もあり、クラウド導入を積極的に検討する流れがありました。実際に導入したことで我々も勉強になり、次に進むことができます」(三浦氏)。「NIIとしてはクラウドサービスを扱える人材の育成をしたいという思いがあります」(山地氏)。
サービス選定ではまず課金形態を検討しました。「我々のような予算遂行が厳格な組織では、アクセス数に応じた課金のような読めない費用が発生するサービスの利用は難しいです」(三浦氏)。「一方で、自分たちでコントロールできるリソースの増減に関しては、水道や電気のように利用した分だけ後から支払える仕組みが整えば、クラウドをもっとクラウドらしく使うことができます。我々が解決すべき課題であり、調達する側のノウハウを作っていきたいと考えています」(山地氏)。
そしてセキュリティポリシーの扱いです。「JAIRO Cloudでは各利用機関がコンテンツを登録していきます。従って、コンテンツには各利用機関のセキュリティポリシーが適用されることになります。一方で利用機関のセキュリティポリシーをすべて調べて最大公約数的にすべてに合致するものを仕様化し用意することは、現実的には不可能です。そこで国内法に準拠していること、国内にデータが保存されることを重視しました」(山地氏)。
運用後は新たな課題も出てきました。「初期のクラウドの調達では、費用対効果をあげようとして、計算機のリソース量をできるだけ切り詰めました。そのため突発的に必要になるテスト環境やR&Dのためのリソースが不足しがちになっています。クラウドサービスを使う上で、今後の調達時に改善していかなければならないポイントだと考えます」(山地氏)。
機関リポジトリの運用を開始して数年が経過し、論文以外のコンテンツの蓄積も進んでいます。「データの割合は数パーセントと少ないのですが、アクセス数を見ると特に教育コンテンツが非常に利用されている傾向にあります」(山地氏)。また、研究データにおいて保存と公開の義務化が進んでいる背景があり、今後NIIでは、オープンソースの研究データ用ミドルウエアの開発にも積極的に取り組んでいく予定です。「JAIRO CloudをNII初のエグジットモデルとして完結した事業サービスに成長させたいというのが我々の目標です。いまは国から予算がついて無償で提供していますが、大学などから費用をいただいて、その中でビジネスモデルを成立させたいと考えています」(山地氏)。