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日本最大級の海外ショッピングサイトを支えるさくらの「専用サーバ」と「VPS」
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最先端技術が次々と投入され、まさに日進月歩の進化を見せる「アドテク」の世界。これまでこの分野では、海外の技術や事例が先行してきたが、このほど純国産プラットフォームサービスがさくらインターネットのデータセンター上で稼動を開始した。
マーベリック株式会社(以下、マーベリック)は、2013年10月に設立されたばかりの新興IT企業。もともとは、大手人材企業であるネオキャリアが行っていたインターネット広告事業を別会社化したのが創業の発端だが、従来の広告代理店業などとは異なり、いわゆる「アドテク」と呼ばれる先進IT技術を使った最先端のWeb広告ビジネスを展開する。
「DSP(Demand Side Platform)/RTB(Realtime Time Bidding)という分野のWeb広告システムの開発や販売、運用を専門に手掛けている。」
こう語るのは、マーベリック 代表取締役社長の美留町督氏。
DSP/RTBとは一言で言うと「Web広告の効果を最大化するためのシステム」で、ここ2、3年の間で急速に普及してきた技術だ。その大まかな仕組みは、Webページ上で広告バナーが表示される「広告枠」への広告出稿を、ページが表示されるたびにその場で瞬時にオークションを行い、落札した広告主の広告が表示されるというものだ。
DSPはこの一連の処理フローの中で、「広告主自身の希望条件に合った広告枠の入札および広告を配信」する役目を担う。一方、広告媒体の在庫/販売はSSP(Supply Side Platform)と呼ばれる仕組みで管理される。その間をつなぐのがRTBで、広告主側の広告配信ニーズと媒体側の広告在庫をマッチングさせるものだ。
もう少し踏み込んで解説をすると、ユーザー(読者)がWebページにアクセスし、広告枠が出現してから、広告原稿が表示されるまでの一瞬の間に、Webページに訪問したユーザーの興味に合わせて広告選別を行っているのがRTBだ。この「一瞬の間」にDSPは買い付け判断および入札を行い、SSPはそれに応札し、複数のDSPやアドネットワークからの入札に対し、最も媒体社にとって収益性の高い広告を選定している。なおシステム間におけるユーザー情報のやりとりにおいて個人情報は含まれない。
こうした仕組みを通じて、広告主はよりターゲットを絞った広告配信を実現でき、ユーザー側もより自分の趣味嗜好にマッチした広告を受け取ることができるようになるというわけだ。ただし言うまでもなく、こうした仕組みを実現するためのITの仕組みには、極めて高速なリアルタイム処理能力が求められる。一般的に、広告枠のマッチングと入札参加の判断は、わずか100ミリ秒の間で処理する必要があると言われている。
「大量のトランザクションをこれだけ短時間の内にさばくには、インフラやアプリケーションに相当高い能力が求められる。逆に技術者にとっては、こうした点にこそアドテク開発の醍醐味がある」(美留町氏)
同社が2013年12月から正式にサービス提供を開始したばかりのDSP/RTBプラットフォーム「Sphere」もご他聞に漏れず、「超高速」かつ「高信頼性」という極めてハードルの高い要件を実現すべく、データセンターをはじめとするインフラの選定には慎重を期したという。
Sphereを稼働させるデータセンターを選ぶに当たっては、やはりレイテンシが最も重要な要件として挙げられたという。マーベリック プロダクトグループ バックエンドユニット マネージャー 松木秀憲氏は、当時を振り返って次のように述べる。
「レイテンシ要件がとてもシビアかつインフラ構築に要する時間を1日でも節約したかったため、ネットワークが共用されるケースが多く、細かな制御やレイテンシの安定を図ることが難しいクラウドサービスは今回の検討対象から外れた。また、たとえ物理サーバ環境であっても、データセンターが遠隔地にあるとそれだけでレイテンシが増えてしまうので、都内にデータセンターがあることが必須条件だった」
さらには、将来のシステム拡張にも柔軟に対応できるよう、データセンターの設備を直接所有・運営しているデータセンター業者が望ましかった。こうした条件を基に選定を行い、最終候補としてさくらインターネットを含む数社が残った。その中から、最終的に同社はさくらインターネットのサービスを選んだわけだが、その最大の決め手となったのが「ネットワーク周りのサポート」だったという。マーベリック プロダクトグループ オープンユニット マネージャー 池田英司氏は、この辺りの事情について次のように説明する。
「弊社はもともと、アプリケーションの開発に人的リソースを集中させているので、ネットワークのスキルを持ったエンジニアがいない。しかし、目標とするレイテンシを達成するには、ネットワーク周りを適切に設計する必要がある。そこで、データセンターを選定するに当たっては、ネットワークの設計・構築を一手に引き受けてくれるところを探していた。その点さくらインターネットは、ネットワークの設計に関していち早く提案してくれた」
また、将来的な回線インフラの増強にも柔軟かつ迅速に対応できる点も、さくらインターネットのサービスを選んだ大きな理由の1つだったという。こうして2013年10月、Sphereのデータセンター基盤として、さくらインターネットのサービスを採用することが正式に決定した。
同社は早速、Sphereのサービス構築に乗り出した。Sphereのソフトウェア自体は、既に別の環境上で稼働していたため、これに大規模運用にも耐えられるよう改修を施した上で、さくらインターネットのハウジング環境内に持ち込んだ百数十台のサーバ上に展開していった。池田氏らは、これら一連の作業をわずか数日で完了したという。
「ソフトウェアの展開作業には、Ansibleをはじめとする各種の新技術を積極的に採用した。そのおかげで大量のサーバの環境構築を一気に行うことができた」
こうしてSphereは2013年12月1日、さくらインターネットのハウジング環境上で無事稼働を開始した。もともとは、ネオキャリアが提供していたサービスだけあり、当初は人材系の広告主が多かったものの、現在ではそれ以外の一般広告の案件が急激に増えているという。また美留町氏によれば、そもそもDSPやRTBをはじめとするアドテク自体が、現在のIT業界においては急成長分野だと見なされているという。
「今、ITの世界では『ゲームの次はアドテク』と言われているほど、アドテクの分野は急成長が見込まれており、資本も人材が集まりやすくなっている。ネオキャリアからアドテク事業を独立させたのも、この分野のビジネスの急成長を見込んでのこと。」
こうした急成長戦略の一環として、同社では現在、優秀な技術者を募っているという。そのための施策も幾つか講じているが、その最たるものが「先進技術への積極的な取り組み」だ。例えば、先に紹介したようにインフラの構築や構成管理でAnsibleを利用しているほか、アプリケーションの開発言語にはscalaを採用するなど、最先端の開発・運用技術の採用を積極的に進めている。
「scala言語には大きな可能性を感じており、またDSP/RTBシステムの開発にも向いていると思う。ただ、scalaなどの先進技術に積極的に取り組んでいる最大の理由は、自分たちがやっていて楽しいからに尽きる。やはり新しいことに取り組んでいる方が、現場の技術者のモチベーションを高く保つことができる。その結果として、社外に弊社の技術力や先進性がアピールできて、優秀な仲間が増えればなお嬉しい」(松木氏)
ちなみに、アドテクの分野は成長が見込まれると同時に、競争が極めて激しい世界でもある。それだけに、新たなサービスを常に開発・提供し続けていかないと、あっという間に競争から脱落してしまう。従って同社では今後も、新たな技術をどんどん取り入れながら貪欲に新規開発に取り組んでいくという。そのためには、さくらインターネットの支援に今後ますます期待したいと美留町氏は述べる。
「サービス開発力を一層強化するために、今後もリソースをアプリケーション開発に集中させていくつもりだ。従ってネットワーク周りは今後とも、さくらインターネットにぜひお任せできればと考えている。これまで、あたかも弊社のネットワーク部門であるかのように親身になって対応いただいてきたが、たとえ今後さくらインターネットのビジネス規模が拡大していっても、将来に渡って今と同じレベルのサポートをぜひ提供し続けていただきたい」