先端素材高速開発技術研究組合が1,024ノードのスーパーコンピューターを「高火力コンピューティング」から利用
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農業現場の負担軽減を目指し、遠隔灌水システムと農業AIの開発に取り組む仙台高等専門学校(以下、仙台高専)の学生チーム「Cyfarma(サイファーマ)」。AI開発の計算基盤として採用したさくらインターネットの高火力 VRTが、モデル学習の大幅な高速化を支援し、高専生の無線通信技術コンクール「WiCON2025」でワイヤレス利活用部門 優秀賞を受賞しました。今回は、Cyfarma代表の阿部立汰さん、AIサーバー開発担当の髙橋蒼さんの2人から、農業AIシステムの開発経緯と高火力 VRTの活用効果についてうかがいました。
仙台高等専門学校の学生たちによる有志チーム「Cyfarma」は、2025年のワイヤレステックコンテスト(以下、WiCON2025)への出場を目標に結成されました。研究室や部活、学年、学科を問わない優秀な有志が集まり、のべ約20人で構成されています。

「WiCONは通信のうまさだけを競うものではありません。無線通信技術を使った社会課題の解決に挑戦するものです。通信技術を活かせる社会課題の設定が重要です。そこで私たちは、農業現場の負担軽減を目指すことにしました」(阿部氏)
Cyfarmaが目指したのは、温度・湿度・土壌水分量などのセンサーデータをLPWA通信で収集し、WebアプリケーションからリモートでON/OFFできる「遠隔灌水システム」です。通信インフラが不十分な農地でも動作するよう設計し、さらにAIを活用した「クマ検知」と「チャットボット」という2つの機能を加えました。
「まず、農家の方が使いやすいシステムである必要があります。どんなに高度でも、使いにくければ導入や活用はしていただけません。また、農家の方のお話を聞くなかで、クマ被害は本当に深刻なのだということもわかりました。電気柵を設置しても乗り越えてくる、作物はもちろん人間にも被害が出る……といった課題に、AIを活用できるのではないかと考えたのです」(阿部氏)
AI開発と実装は、髙橋氏が担当。当初は、 NVIDIA RTX2060を搭載した自分のパソコンで開発を始めたそうです。しかし、すぐに計算資源が問題になりました。

「クマを判別する『物体検出モデル』をつくるには、モデルの種類やサイズ、データセットの前処理方法、学習率といったハイパラメーターの組み合わせを数十通り試す必要がありました。しかし私のパソコンでは、1回の学習に6時間以上かかってしまいます。1日に試せるのは2~3種類が限界で、精度の追求ができそうにありませんでした」(髙橋氏)
そこで髙橋氏は、まず学内ワークステーション(NVIDIA RTX A4500搭載)の利用を検討しました。しかしこれも、断念することになったといいます。
「インターネット利用に各種申請が必要になることと、ネットワーク回線の制限から、数万枚の学習画像データセットをダウンロードするだけで3~4日かかることがわかりました。コンテストの開発期間は限られていたため、現実的ではありませんでした」(髙橋氏)
次に検討したのが、海外のクラウドベンダーが提供するH100インスタンスです。しかし、1時間あたりの利用料がおよそ数十ドル規模にのぼり、コンテスト参加チームの予算では利用が困難でした。さらに、VPN接続のための追加設定といった、ベンダー独自の環境構築も必要だったそうです。
これらの課題を解決したのが、さくらインターネットの「高火力 VRT」でした。H100 GPUを搭載した仮想マシン形式のクラウドGPUサービスで、利用料金は1時間990円。仮想マシン(VM)形式のためLinuxアプリケーションをそのまま動かせる点が決め手になりました。
「高火力 VRTはTailscaleをインストールするだけでVPN接続でき、nginxやFastAPIも普通に使えました」(髙橋氏)
セットアップはさくらインターネットの公式マニュアルに沿って、NVMeの一時領域のマウント、CUDAツールキットのインストール、NVIDIAドライバーのインストールと順に進めました。その後のPython環境構築も、私物のパソコンと同じ手順で完了。コントロールパネルやマニュアルが日本語対応している点も、スムーズな立ち上げに貢献したそうです。
「SSH接続するだけで、自分のパソコンとほとんど同じように使えました。面倒な独自設定もなく、外部サービスだと意識する感覚もなく、自分のマシンがそのまま強くなった感じです」(髙橋氏)
加えて髙橋氏は、AIエンジニアとして「初期のディスク容量」の大切さも強調しました。
「今回、検証用として起動領域20GBの構成を利用していたのですが、CUDAツールキットをインストールした時点で使用容量が18GBほどになり、Pythonのライブラリーや追加ツールを入れる余裕がなくなってしまいました。クラウドなので、通常であればディスクサイズを拡張することで対応できますが、今回は一時領域として7TBのNVMeストレージが利用できたため、Pythonライブラリーやデータセット、ソースコードは手元のパソコンに置き、作業時に一時領域へアップロードする運用で対応しました。
今回の開発を通じて、AI開発用途では起動領域は最低でも40GB、余裕を持つなら100GB程度あると安心だということがよくわかりました」(髙橋氏)

高火力 VRTへ移行してからの変化は、数字ではっきりと現れました。
クマ検知モデルの構築では、ImageNetから取得した画像で学習。最初はランダムにパラメーターを設定し、結果の高いものを起点にさらに調整を重ねる手法で、精度を段階的に引き上げていきました。1日に試せるモデル数が大幅に増えたことで、このサイクルを短期間で回せるようになったそうです。
「学習時間が最短30分ほどになり、1日の試行回数が劇的に増加。それによってモデルの精度も75% から95%まで向上しました」(髙橋氏)
クマ検知モデルの開発が高速化したことで、髙橋氏は開発リソースをほかの作業にも投入できるようになりました。農林水産省などが公開する資料をもとに対話式で疑問に答える「農業チャットボット」も、そのなかの1つです。
「チャットボットに使いたいLLMのモデルは、およそ30GBあります。これを動かすには大容量のGPUメモリーが必要で、自分のパソコンでは起動すらできませんでした」(髙橋氏)
現在、Cyfarmaの農業支援システムは、さくらインターネットの2つのサービスを組み合わせた構成を採用しています。
「さくらのVPSでセンサーデータの取得やデータベース格納、Webアプリケーションのバックエンド処理をしています。高火力 VRTはクマ検知のリアルタイム画像判定と、農業特化LLMチャットボットの実行に利用しています。AIモデルはFastAPIでAPI化し、バックエンドに組み込みました。Webアプリの操作がVPS経由でAIサーバーに届き、クマ検知の結果が農家へリアルタイムに通知される仕組みです」(阿部氏)
「高火力 VRTは仮想マシンなので、学習したモデルをそのままAPIサーバーとして稼働できます。運用負荷を減らせるのも助かりました」(髙橋氏)

こうして開発されたCyfarmaの農業支援システムは高く評価され、WiCON2025でワイヤレス利活用部門 優秀賞を受賞しました。
「今回の開発で、AIがどう社会課題に活かせるかの具体性や実現性を高められました。それが受賞につながったと考えています」(阿部氏)

また、AIの用途に対する考え方にも変化があったと阿部氏は語ります。
「AIはとても便利ですが、『何でもかんでもとりあえずAIにやらせよう』と考えてはいけないな、と思うようになりました。AIは使った分だけ計算資源を占有し、環境負荷も上げてしまいます。シーケンス制御でできることには、生成AIを使わないほうがよいはずです。用途や使い方をよく理解し、対象を絞って特化させることで、農業の再現性を高めていけると思っています」(阿部氏)
Cyfarmaは今後、実際の圃場での継続運用とデータ収集を進める予定です。環境データや灌水の履歴、作物の状態といったデータを取り入れ、農業に不可欠な「経験と勘」をAIで補助したい考えです。
「いつか、どんな場所でも……それこそ火星でも、農業ができるようにしていきたいですね」(阿部氏)
社会課題へのアプローチのなかで、技術を磨く仙台高専Cyfarma。農業のリアルな課題解決を、さくらインターネットも応援しています。
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