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AIロボティックスによる自動授粉技術を活用し、全自動でイチゴが安定的に生産できる栽培システムを開発したHarvestX(ハーベストエックス)株式会社。「未踏IT人材発掘・育成事業」にも採択された実績を持ち、官公庁からも期待されるスタートアップです。現在、食品メーカー、小売業界で導入が進む同事業では、さくらインターネットが提供する「高火力 VRT(バート)」が活用されています。 今回は、HarvestX代表取締役の市川 友貴氏と、自動授粉ロボットの開発を担当するエンジニアの佐々木 誠幸氏にインタビューを実施。「高火力 VRT」導入前に抱えていた課題と導入効果、今後の展望まで聞きました。
同社の事業は、2018年に代表の市川氏が、東京大学本郷テックガレージで実施していた研究開発プロジェクトが発端です。その後、「未踏IT人材発掘・育成事業」などにも採択され、2020年にHarvestX(ハーベストエックス)株式会社を設立。2025年には、経済産業省や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)らが海外展開や研究開発に関する支援をおこなう「J-Startup」にも選定され、将来性が期待される国内スタートアップの1つです。
メイン事業は、AIロボティックスによる自動受粉技術を活用し、イチゴが安定的に生産可能となる全自動栽培システムの開発です。独自開発した自動授粉ロボットを核として、栽培設備、栽培管理支援システム、日本品質のイチゴ苗まで提供し、イチゴの全自動栽培に関するトータルサポートを実施。イチゴの育苗から、授粉・収穫フェーズまで一気通貫で支援することで、人工光型植物工場の完全自動化に挑戦しています。

「従来のイチゴ栽培工場では、ハチを放し飼いにして受粉させています。その一方で、食品製造業で最もリスクとなるのは虫などの異物混入。そのため、食品メーカーは、いちごの栽培工場を導入したいのにできないという課題がありました。私たちの事業であれば、ロボットが受粉するため、これらの課題を解決できます」(市川氏)

市川氏の言葉通り、ターゲットはイチゴを加工して使う食品製造業や小売業で、イチゴはケーキやスムージー、フルーツサンドなどで使用されています。「うなぎパイ」で有名な静岡の菓子メーカー・春華堂へも導入されました。
「農業は従来から暗黙知というか、ノウハウも属人化されていますが、それをITの力で計算可能なものにしていきたいと考えています。国境や環境を飛び越えておいしいイチゴを誰でも作れる世界の実現を目指しています」(市川氏)
イチゴ栽培で最も重要なのは授粉作業です。花が咲いたタイミングを見極め、適切に受粉させなければなりません。そのため、自動授粉ロボットにはイチゴの花を正しく認識する力が求められます。ところが、この認識精度を高めるための学習には、膨大な計算リソースが必要になります。
市川氏は「昨今の生成AIブームなどにより、GPUリソースを確保するのは大変でした」と振り返ります。
「VM型GPUクラウドサービスの高火力 VRTが魅力的で、すぐに利用を決めました。現在は、高火力 VRTのおかげで計算効率が格段に上がり、自動授粉ロボットの精度も向上しました」(市川氏)

高火力 VRTは、さくらインターネットの高火力GPUサーバーシリーズの1つで、NVIDIA H100を搭載しているのが特徴です。HarvestXでは、自動受粉ロボットが適切な花を検出するためのAIモデルの学習に活用しています。
「光の当たり具合や、葉に隠れている場合など、花が検出されづらいという課題がありました。そこで、私たちは自動授粉ロボットに花の形状を繰り返し学習させ、検証・評価までのPDCAを回すことで精度を上げていました。ただ、それには膨大な計算リソースが必要になります。そのリソースを賄うために、高火力 VRTを活用させていただいています」(佐々木氏)

同社では、高火力 VRTを導入した後、機械学習関連業務の成果向上と作業効率化を実現できたといいます。トランスフォーマーベースの機械学習モデルの学習時間は、従来と比べ約33%短縮。その結果、自動授粉ロボットの精度は格段に向上し、現在ではイチゴの花の検出率は99%以上にも上ります。
「高火力 VRTを導入して一番驚いたのは、学習のスピードです。従来と比べ、計算スピードが格段に向上したため、短時間で花の検出精度を上げることができました。また、膨大なGPUメモリを活用できたおかげで、学習する際の選択肢も広がりましたね。導入して2か月ほど活用していますが、サーバーダウンやサーバーに起因した失敗は一度もなく大変満足しています」(佐々木氏)
また、国内にデータセンターがあることはセキュリティ面においても「安心感につながった」と市川氏は話します。
「安全保障上の問題でデータの保管場所にはとくに気を遣っています。農業分野においても、再現性の高いデータをどこの企業が持っているのかというのは、今後さらに重要になってくると思っています。国外で保管することは、地政学的リスクなどで将来的に情報漏洩の危険性がないとは言い切れません。その点、さくらインターネットは国内に拠点を持つ企業なので安心感は非常に高まりました」(市川氏)
日本語によるマニュアルやUIもわかりやすく、占有型サーバーである点も「気に入っている」と佐々木氏は話します。
「サーバーの安定性に関わってくるところですが、占有型なので、急に他社が優先されて途中で止まるというトラブルが一切ありません。当社でも学習スピードをあらかじめ計算して、開発サイクルのマイルストーンなどを設定していますが、割と当初の読み通り、スムーズに進んでいるので助かっています」(佐々木氏)
今後は、同社が提供するイチゴの全自動栽培パッケージのユニットエコノミクスをしっかり提示していくと同時に、提供するサービスも増やしていくといいます。
「これだけ当社製品に投資すれば、どれぐらいの利益が出るという数値をしっかり明示していこうと考えています。そして、現在は受粉と肥料管理の自動化がおもなサービス内容ですが、今後は収穫作業や葉を減らす作業も自動化させていきます。最終的には、無人の完全自動化工場を実現したい。品種もイチゴだけでなくトマトなどほかの作物の栽培にも応用していこうと考えています」(市川氏)
また、既存製品パッケージの拡販に関しては、連携パートナーを増やしていきます。大型設備の製造や、設置を含めたスキームも構築中です。完全自動化の工場を目指し、通信系企業や空調メーカー、電気機械メーカーなど、さまざまな業種と連携を進めています。市川氏は「まさに高火力 VRTを提供するさくらインターネットも有力な連携パートナーの1社です」と力を込めます。
最後に、さくらインターネットに期待することを市川氏は以下のように話しました。
「当社がより多くのお客さまに栽培パッケージを提供していくためには、さらに高度なAIの開発が不可欠です。そのためには、膨大な計算リソースが必要になりますし、同時にデータ保管の安全性も確保しなければなりません。この2つの要件は、今後のサービス展開において極めて重要な要素となっています。さくらインターネットは、高火力シリーズという強力な計算リソースと、国内データセンターという安全なデータ保管環境の両方を備えており、まさに私たちが求めていた条件が揃っているんです。今後も変わらぬ品質でのサービス提供を、引き続きお願いしたいです」(市川氏)
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