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業務用エアコン最大手のダイキン工業株式会社は、現場作業員の属人化解消、作業効率化などを目的に、フェアリーデバイセズ株式会社と共同研究を実施。首掛けウェアラブルデバイス「THINKLET」を活用した遠隔支援システム、作業の良否判定などが可能になるAI解析モデルの開発に注力しています。AI開発には、高性能なGPUリソースが必要不可欠なため、さくらインターネットが提供するベアメタル型クラウドサービス「高火力 PHY」を活用。 今回は、ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンターの技師長 比戸将平氏(写真中央)、吉田直樹氏(写真右)、サービス本部の小原拓哉氏(写真左)、フェアリーデバイセズの執行役員 CPO 関喜史氏に、共同研究の内容と、高火力 PHYの導入理由と効果、今後の展望などを聞きました。
少子高齢化の影響で人材不足が各業界で叫ばれています。ダイキン工業も、若手作業員の獲得に課題を抱えており、エアコンの保守メンテナンス業務などは熟練作業員に頼っている状況がありました。このままでは作業員の高齢化は進み、さらなる作業員不足や彼らの技術・暗黙知が失われることになってしまう。

そこでダイキングループの技術コア拠点であるテクノロジー・イノベーションセンターは、フェアリーデバイセズの開発した「THINKLET」を活用した現場支援ソリューションの開発をスタートします。
フェアリーデバイセズは、2007年に設立した東大発のスタートアップ。音声認識に強みを持ち、行動認識、エッジAIなどの領域で、自社プロダクトの開発および大学・企業との共同研究にも注力しています。主力プロダクトの「THINKLET」は、同社が開発した首掛けウェアラブルデバイス。カメラと多方向に対応した集音マイクを搭載し、リアルタイムで映像と音声が共有でき、ハンズフリーによる通話も可能です。

「夏場はエアコンの修理件数が爆発的に増えるなか、作業員の高齢化が進んでいるため、将来的に人材不足になることは明白でした。そこで、フェアリーデバイセズの『THINKLET』を活用した遠隔支援ソリューションを考えたんです。使い方は、若手作業員が現場で修理方法がわからない際、実際のカメラ映像を見た本部から遠隔指示をもらって作業できることなどを想定しています。また、THINKLETで撮影した作業動画を活用し、彼らがこれまで蓄積してきた暗黙知などを形式知化することで、技術継承が可能になる“熟練工AI”モデルを共同開発しています」(吉田氏)
このソリューションを活用すれば、新人でも本部から遠隔指示を受けながら作業できるため「従来は2人必要だった現場も1人で対応可能になり、人材不足の解消に寄与できるのではと期待しています」と小原氏は力強く語ります。

同プロジェクトにおいては、作業動画に対するAI映像解析の処理基盤として、さくらインターネットが提供するベアメタル型クラウドサービス「高火力 PHY」を活用しています。従来は他社のクラウドを活用して検証作業をしていましたが、GPUの確保が難しい側面があり「やりたい実験がうまくできなかった」とフェアリーデバイセズの関氏は、以下のように振り返ります。
「AI解析モデルの開発を進めていくうえで、高性能のGPUは必要不可欠です。ただ、ほかの大手クラウドサーバーでは、ユーザーの需要が高まっていく一方で供給量が不足し、使いたいときに使えない状況がありました。そうしたなか、さくらインターネットから高性能なGPUを搭載したベアメタル型クラウドサービス(高火力 PHY)の提供が開始されると聞き、当社で体験利用を申し込んだんです。実際に利用して動作に問題がなかったため、そのままダイキン工業に導入をすすめました」(関氏)
関氏からすすめられ、導入を決意したダイキン工業。導入する際も特段困ったことはなかったと比戸氏はいいます。

「管理画面での初期設定は簡単にできました。マニュアルも充実していたのでセットアップで不自由した場面はありませんでしたね。それと社内稟議がスムーズに進んだことが良かったです。当社では他社製品を導入する際に、信用できる会社か、セキュリティ面は大丈夫か、など検討を十二分に重ねることが多いんです。さくらインターネットは国の支援を受けて高速GPUクラウドを提供している(※)ことは社内でも知られていましたので、問題なく承認されました」(比戸氏)
(※)「さくらのクラウド」の技術開発計画が経済産業省による「特定重要物資クラウドプログラムの供給確保計画」に認定
次に、実際の使用感について尋ねてみました。比戸氏は「最初は物理サーバーということで停止した場合のリスクに不安を抱えていた」そうですが、蓋を開けてみると「安定稼働しているので満足している」と回答。
「まず、他社クラウドと比べて圧倒的にコストは安いと思います。ただ、コストが安いぶん動作が悪いといったことはまったくなく、安定稼働しています。導入から1年ほどになりますが、1度だけAI解析が進まなくなった場面(半日停止)があったものの、わずか1日で復旧してくれました。カスタマーサポートの面でも優れているなと感じましたね」(比戸氏)
現在、「高火力 PHY」を活用することで、スムーズに熟練工AIの解析モデルの開発が進められているという。2024年の夏には現場作業員にTHINKLETを装着させ、作業動画データの収集や点検作業の良否に関する実証実験をおこないました。今年の夏は実証実験のレベルをさらに高度化させ、対象作業を拡大した実証実験をおこなう予定だといいます。

「昨年は、故障したエアコンに表示されるエラーコードに対し、作業員がその指示通りに作業できているかどうかをAIが判断する、といった実験をおこないました。おおむね精度は良かったですね」(小原氏)
また、エアコン修理で現場訪問する際、修理時間とお客さまに説明する時間が半々だといいます。そのなかで、作業報告書を作業者自ら書くのではなく、カメラ映像からAIが判断し自動で作成できれば、「時間が短縮され、訪問件数を増やしたり作業量が削減できたりするのでは」と小原氏はAIモデルの具体的な活用方法について語りました。
ダイキン工業の特徴の1つに、保守メンテナンス部隊を自社内で保有している点があります。ほかのメーカーであれば、メンテナンス業務を外部に委託しているところも多い。内製化しているからこそ、「日々の作業動画データの蓄積スピードは桁違いに速い」と比戸氏はいいます。
「このプロジェクトが始まってから、作業動画は2,000時間以上溜まってきました。現在は、この膨大なデータをAIで解析していますが、従来のクラウド環境では前述した通り、GPUの問題で限界がありました。そこを、高火力 PHYを導入したことで、十二分にやりたいことができています。実際、高火力 PHYに乗り換えたことで、分析が早く進み、昨年の実証実験にこぎつけられたという事例もあります。引き続き、開発を進め現場への実装を早めに実現したいです」(比戸氏)
なお、今回の事例のおかげで、ダイキン工業テクノロジー・イノベーションセンターで実施予定の別の大型プロジェクトでも、高火力 PHYの活用が検討されているといいます。
プロジェクト成功の先には、作業現場でのデータ収集、AI解析、アプリケーションの開発まで一気通貫で可能なパッケージの提供といった横展開も検討しているという両社。
実装後は、ダイキン工業の保守メンテナンスはもちろん、人手不足が顕著な建設現場、製造現場など多くの場面で活躍が期待されるソリューションになりそうです。さくらインターネットでは、引き続きダイキン工業とフェアリーデバイセズの取り組みを、高火力 PHYで支援していきます。
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