宇野自動車ではバスの位置情報を取得し、利用者にバスの現在地や運行状況を知らせるバスロケーションシステムを展開しています。当初は車内にタブレットを設置しGPSの位置情報を取得・送信していましたが、Wi-Fi経由でのデータ通信にトラブルが多く、タブレットの給電と内蔵GPSの受信感度が低いなどの運用課題が出てきました。そこで、コストを抑えつつ利用者の利便性も高めるためさくらインターネットのIoTプラットフォーム「sakura.io」を利用することにしました。
- 課題
- 市販のバスロケ車載機が高額
- タブレットとルーターに内蔵バッテリーがあるため電源問題が発生
- Wi-Fiルーター経由でのデータ送信にトラブルが多い
- 効果
- sakura.ioで最安レベルのコスト さくらのクラウドで安全性と効率性を両立
- 内蔵バッテリー問題からの解放され、バスの主電源に連動して電源をON/OFF
- Wi-Fiルーターを経由しない直接データ送信で安定化
バス事業者は8割以上が赤字 バスロケ導入コストを軽減
宇野自動車は大正7年(1918年)の設立以来、岡山市を中心に「宇野バス」を運行しているバス事業者です。特徴は運賃の安さ。民間バス会社で国内1番の安い運賃を誇ります(公営を含めても2番)。それでいながら、国内バス事業者の85%が赤字で補助金を受ける中、宇野自動車は行政からの補助金は一切受けていません。さらに、2015年の全車両への無線LAN導入など、運賃を抑えたうえでサービス向上にも積極的に努めています。
近年、バス事業者において導入が進んでいるのが、「バスロケーションシステム(以下、バスロケ)」です。Webサイトやスマホアプリ、駅前に設置されているデジタルサイネージなどを通して利用者に運行情報を伝えることが可能です。さらに、蓄積した運行データをもとに、ルートやダイヤの見直しなどにも役立ちます。宇野自動車でも数年前に新しいバスロケ導入の検討を開始しました。
しかし「一般的に多額の導入費と維持費がかかるという問題があります」とSujiya Systems代表の高野孝一氏はバスロケについて指摘します。高野氏は過去に宇野自動車とダイヤ編成システムを開発し、今回バスロケの開発を担当したエンジニアでもあります。その高野氏は「例えば、261台のバスにバスロケを導入するために2億円ほどの投資が必要だった例があります。国の補助金制度もありますが、導入時にしか交付されず、システムの維持費だけでもバス事業者には厳しいのが現状です」と明かします。
高野氏と宇野自動車はコストを抑えるため、GPSを内蔵したAndroidタブレットを利用したバスロケを開発して2016年6月から運用してきました。
しかし、一般的なタブレットはバッテリー内蔵のため電源の問題がありました。「バスのエンジンを切った後もタブレットの電源は落ちないため、位置情報を送信し続けてしまいます。データ送信に利用していたWi-Fiルーターにも内蔵バッテリーが原因と思われるトラブルがありました。さらにGPSの受信感度を上げる必要もありました」と高野氏は話します。そこで、上記の問題が発生しないバスロケを開発することにしました。
最安クラスのコストでバスロケ開発
そこで、高野氏が目をつけたのが、さくらインターネットのIoTプラットフォーム「sakura.io」でした。LTEの通信モジュールおよび通信サービス、認証機能、データ保存・連携用のクラウドなど、IoTに必要な機能をパッケージングしたソリューションです。通信モジュールを搭載するマイコンボードには、さくらインターネットのパートナー企業であるjig.jpの「IchigoSoda」を採用。IchigoSodaはECサイトで手軽に入手でき、電源を入れるだけでsakura.ioのLTE網への通信を開始する仕組みが用意されています。高野氏はIchigoSodaにGPSセンサーを搭載したバスロケを開発しました。
「30秒ごとに位置情報をsakura.ioのクラウドにアップロードし、自社のWebサーバーや、『Google Map』などへも位置情報やダイヤからの遅延情報などを提供しています。利用者はGoogle Mapからバスの遅延と位置を確認できます。sakura.ioのおかげで単体でのクラウドと通信が可能になり、実装が非常に楽になりました」と高野氏は解説します。
費用の面でも、材料費はバス1台につきおよそ1万7000円、毎月のデータ通信費用は1車両140円ほどと非常に安価にできました。「バスロケとしては最安レベルのコストに収まったと満足しています。特に月々かかる運用コストの安さはトップレベルだと思っています」と高野氏は笑みを見せます。
sakura.ioの通信費用は、アカウントごとにポイントを購入して支払う仕組みになっています。ポイントはそのアカウントで管理している全デバイスの通信費用に充てることが可能であるため、モジュール毎に固定で通信費用がかかるシステムに比べて、使った分だけの支払いで済みコストを抑えやすくなります。
また、通電で起動・終了するichigoSodaは、バスの主電源と連動したON/OFFが可能になりました。
バスロケ以外の仕組みもsakura.ioで
さらに、sakura.ioの良いところはシステム拡張も容易なこと。コロナ禍で宇野自動車のもとには利用者からバス内の「混雑状況(密情報)」を可視化してほしいとの要望が寄せられました。
そこで、高野氏はバス車内の密情報を4段階に分けたレバーを設置。運転士がバスの状況を判断してレバーを操作し、その結果をsakura.io経由で送信。密情報と位置情報を同時にクラウドで共有することで、今では利用者がGoogle Mapと自社バスロケアプリで密情報を確認できるようになっています。このレバーも1セット300円ほどの市販品で作成できたとのことです。
現在、同バスロケ車載器に必要なプログラムおよびデータ仕様はWebサイトで無償公開されており、岡山県の自治体の他、北海道、青森、群馬、福井、岐阜など全国のバス会社でテスト運用され、これから本運用が始まるところもあります。これらの仕組みについても、国土交通省の実証実験関連の事業で使いたいという連絡が来ているとのことです。
「実装が複雑である通信部分がsakura.ioではサービスとして組込まれていることもあり、アイデアが思い浮かんだらすぐ実装できます。例えば、サーモグラフィー・超音波センサー・光学センサーなどでカウントした乗降数を簡単に送信することができます」と高野氏は期待を膨らませます。IoTには無限の可能性が広がっており、それを実現する基盤となるsakura.ioは大きな役割を今後日本中で果たしていくでしょう。
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- 宇野自動車株式会社
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- 事業内容
- 岡山市街と岡山県北東部を中心とした路線バス会社
- 設立
- 1941年