ダイキン工業×フェアリーデバイセズが仕掛ける大規模AIプロジェクト。高火力 PHYが支える次世代現場支援
- メーカー
ダイキン工業株式会社
- GPUサーバーサービス



2011年創業の東京大学発ベンチャーである株式会社テンクーは、がんゲノム医療を支えるトータルソリューションソフトウェア「Chrovis(クロビス)」を開発しています。2019年6月に「がんゲノムプロファイリング検査」が保険収載されたことを受け、Chrovisの引き合いは増加。現在同社では、今後社会実装が求められる“全ゲノム解析”に向けた研究開発を加速すべく、「高火力 VRT」を導入しています。 今回は、「高火力 VRT」導入の経緯とその効果、そして今後の展望まで、テンクーの取締役CTO 青木貴司さん、インフラストラクチャチーム 野嶽俊則さん、薬事チーム 坂井悟思さんに話を聞きました。
テンクーは、がんゲノム医療の現場で活用できるトータルソリューションソフトウェア「Chrovis」を開発しています。Chrovisは最先端のバイオインフォマティクス(生命科学データを情報解析する技術)のアルゴリズムと膨大な文献情報をもとにした知識データベースを用いて、それぞれの症例に合わせたレポート作成を支援しています。作成されたレポートは、検査結果をわかりやすく可視化する設計となっており、医師および医療従事者の理解や患者への説明支援への応用可能性について、臨床研究ベースで検討を進めています。
また、2019年6月に「がんゲノムプロファイリング検査」が保険収載されてからは、複数の医療機関と共同研究も開始しました。このサービスは、それぞれの医療機関が実施する「がんゲノムプロファイリング検査」において、データ処理、アノテーション(データに解釈を補助するための情報を付与する処理)、レポート作成を一元的に支援するというもの。保険収載以降、検査の増大に伴う現場の医療従事者の負担軽減、判断支援において、すでに一定の成果が得られています。
ただ、その一方で「がんゲノムプロファイリング検査」は、人間の約2万個ある遺伝子のうち、がんとの関連がよくわかっている遺伝子のみを検査します。その際に、希少がんなどでは疾患の適切な理解に結びつかない場合があるという課題が指摘されています。

「希少がんなどは現行の検査では原因を網羅的に見つけることが困難です。そこで、国としても将来的に全ゲノム解析を推進しようとしています。全ゲノム解析では、約2万個すべての遺伝子のゲノム領域が対象です。膨大な情報取得が可能になるため、希少がんなどの患者さんに対して適切な診断・治療がおこなえるようになるのではと期待されています」(坂井氏)
そこで、同社でも「全ゲノム解析検査」に対応できるChrovisの新システムの開発をすすめています。ただ、解析対象となるゲノムのデータ量が急速に増大するため、同社が自社環境で運用していたGPUでは、この“次のフェーズ”に必要な計算リソースを確保することが難しくなってきました。
「全ゲノム解析になると必要な計算量が一気に跳ね上がります。この膨大なデータ量を処理するには、社内のGPUではどうしても対応できず、“これ以上は難しいな”という限界が見えていました」(野嶽氏)
そこで同社では、クラウドでGPUリソースを確保する方向へ検討を開始。しかし、大手外資系クラウドは従量課金が基本で高額なプランが多かったため、予算管理が難しくなる点が大きな懸念材料でした。解析件数が増えれば利用料も跳ね上がるため、安定した費用見通しが立てづらかったといいます。

「外資系クラウドだと為替にも左右されるので、毎月のコストがほぼ読めません。そうしたなか、以前からお付き合いのあったさくらインターネットから『高火力 VRT』というサービスがあることを知りました。使った分だけの課金システムのため、月額の料金体系がわかりやすく、必要なGPUスペックに応じて費用計画が立てやすいと感じました。実際、大手外資系クラウドと同スペックで比較すると、最大で40%ほどコストを抑えられます。加えて、日本語のドキュメントやサポートが充実しており、迷わず使える点も良いなと思い導入を決めたんです」(野嶽氏)
また、同社が支給を受けている助成金は、申請や実績報告の際、見積書・請求書・支払証跡などの提出を細かく求められます。さらに、助成対象となるためには、月単位で明確な費用根拠を示さなければなりませんでした。
その点、さくらインターネットは日本企業として請求書発行にも対応しており、利用料金体系も明瞭。高火力 VRTでは必要なGPUを事前に見積もりしやすく、助成金の要件に合わせて“必要量を確実に使える”点も導入の決め手になったといいます。
高火力 VRTの導入により、テンクーのゲノム解析のフローは大きく効率化しました。CPUでは1症例あたり9時間ほど要していたアライメントという解析処理の時間が、高火力VRTを用いたGPU環境では約40分で完了。解析作業の回転率が格段に速くなり、開発のイテレーションが改善したといいます。
「本当に驚くほど速くなりました。全ゲノム解析では、遺伝子のどこが変化しているかを判断するために、約30億個の塩基配列を解析する必要があるので、コンピューターに対する要求リソースがかなり高いんですね。高性能GPUを活用すれば、確かに費用はかさみます。ただ、解析時間が大幅に短縮されたため、1日で解析できるデータ量はかなり増えました。費用対効果としてはかなり大きかったですね」(野嶽氏)
同社では、「高火力 VRT」による解析処理速度の向上で、従来の遺伝子パネル検査だけでなく、今後本格的に増えると予測される全ゲノム解析検査にも柔軟に対応できるシステム開発体制が整いました。症例数が急増する場面でも、クラウドGPUであれば必要なタイミングでスケールさせることができるため、計算基盤のボトルネックが発生しにくくなったことも良かったといいます。

また、「高火力 VRT」を利用できる環境が整ったことで、開発チームの意識や行動にも変化が生まれました。こうした変化の背景には、高性能GPUを使った開発が実際に成果につながったという“成功体験”が社内に蓄積されてきたことが大きいといいます。その結果、今回の開発だけでなく、ほかのプロジェクトにおいても「もっと高性能GPUを活用できないか」という視点が従業員の間で広がりつつあります。
「従来のように手元のGPUリソースの制限を気にすることなく、最初から高性能な環境を使って設計できるようになりました。そのため、ゲノム解析はもちろん、それ以外の開発プロジェクトに至るまで、“チャレンジしていこう”という空気感が社内で生まれたのはうれしい副次的効果でしたね」(野嶽氏)
テンクーでは、引き続き Chrovis の高度化をおこないつつ、海外展開にも視野を広げています。同社は2025年3月に、タイ保健省、シリラートゲノミクスセンター(マヒドン大学シリラート病院医学部)、タイの大手医療グループであるBDMS傘下のN Health社が運営するN Health Novogene Genomics社と、AIを活用したがん遺伝子変異解釈プラットフォームの共同開発に関する覚書(MOU)を締結。東南アジア地域で課題となっている希少がんや小児がん領域のゲノム解析支援の取り組みに向けて準備を始めています。
「東南アジアも含め、世界的に全ゲノム解析のニーズは確実に広がっています。当社でもまずは国内で事業拡大しつつ、その後タイを中心に海外展開も視野に入れています」(坂井氏)
また同社では、Evo2を活用した実験も始めました。Evo2は、2025年にスタンフォード大学などの研究チームが発表したDNA配列を学習したゲノム基盤モデルです。同社では、全ゲノムDNA配列の変化からRNAやタンパク質機能に関わる影響を予測する用途でEvo2を活用することで、全ゲノム解析結果の解釈に役立てられる可能性があると考えています。

「ゲノム領域でも、AI技術は注目されています。当社でもChrovisのコア技術を活用しつつ、LLMをはじめとした深層学習技術を組み合わせることに非常に可能性を感じています。高火力 VRTを導入したことで、高性能GPUを占有でき、手軽に大規模なモデルを検証できる体制が整ったので、Evo2を活用した全ゲノム解析のアノテーションなどはできないかなど、新しいアイデアが生まれています。可能性は大いに広がったと思いますね」(青木氏)
こうしたなかで、さくらインターネットへは「GPUを含めたサービスの安定提供と国産インフラとしての信頼性」に期待していると坂井氏は話してくれました。
テンクーは、全ゲノム解析の普及と海外展開を見据え、Chrovisのさらなる進化を進めています。その基盤を支える計算環境として、さくらインターネットは高火力で引き続きテンクーを支援していきます。
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