導入事例

世界最新鋭の放射光施設「NanoTerasu」──情報共有を支えるクラウド基盤に国産クラウド「さくらのクラウド」を採用 

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST) 様

強い光で微小な世界を照らし、未来の産業を創造する。2024年、「杜の都」仙台に誕生した放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」には、基礎科学から産業分野におけるイノベーションの創出起点としての期待が寄せられています。  NanoTerasuは国と地方自治体、大学、民間企業が参画して建設され、国側の運営主体として量子科学技術研究開発機構(以下、QST)が参画しています。多様な組織が関わるなかで、セキュアかつ柔軟な情報共有基盤を支えるため、さくらのクラウドが採用されました。  施設の運営を担う、QST NanoTerasuセンターの中谷健氏(写真中央)に、 NanoTerasuが目指す未来像と、その複雑なバックヤードを支える情報基盤についてくわしく聞きました。  ※撮影同席: NanoTerasuセンター 木村洋昭氏(写真左)、塚本光昭氏(写真右)

課題
海外サービスの終了にともない、1年以内という短期間での移行が必要
組織横断での厳格かつ複雑な権限管理、限られた人的リソース
外資系クラウドにおける予算・安全保障上の不安
効果
Nextcloudの検証環境を1週間弱で構築、本格的な移行作業は3か月ほどで完了
100名超を対象にした権限管理を2人で運用、日常運用の負荷も軽減
ISMAP登録の国産クラウド採用で、信頼性・経済安全保障を担保

官民連携で産業イノベーションを創出する放射光施設 

 NanoTerasuは、2024年4月に運用を開始した放射光施設です。「軟X線」という光を用いてナノ領域を見る施設で、とくに物質の構造やそれが持つ機能を直接観察できます。「官民地域パートナーシップ」という枠組みで設立され、基礎科学の探究はもちろん、食品や自動車部品、新素材開発といった幅広い産業分野でのイノベーションが期待されています。 

NanoTerasuの外観(提供:QST)

 NanoTerasuは産業分野での活用を見込み、施設のさまざまな部分で「使いやすさ」を追求しています。利用の裾野を広げ、これまで放射光施設を利用したことがなかったスタートアップ企業や県内の中小企業が参加できるよう、さまざまな支援制度を設けたり、放射線業務の従事者でない方でも安全に実験できるエリアを設けたりしています。 

さらに、設備の構築・維持には外部の協力会社が多数関わっています。運営側はさまざまな組織に所属する100名以上の人々が、それぞれの専門分野に基づいて役割を担い、分担・連携して動いています。そのようななかで、利用者側はもちろん、運営側でもネットワークレベルで情報を分離し、緻密な権限管理をする必要がありました。 

AWS「Amazon WorkDocs」のサービス終了にともない、1年以内の移行が必要に 

NanoTerasuセンター 中谷健氏 

 NanoTerasuの建設期間中は、AWSのファイル共有サービス「Amazon WorkDocs(以下、WorkDocs)」を利用して、各種情報の共有をしていました。しかし2024年に同サービスの終了が告知され、1年以内にサービスを移行する必要が出ました。そこで、政府のセキュリティ基準である「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」に登録されているサービスから検討を進めました。 

大手の外資系ファイル共有サービスも検討したのですが、権限管理がまだ煩雑で管理業務に工数がかかりそうだったことと、海外サービス特有の予算管理のしにくさが課題でした。また、ちょうど「デジタル赤字」などが話題になっていた時期でもあり、経済安全保障の観点からも、できる限り国産のサービスを使いたいと考え、そのなかで「さくらのクラウド」とオープンソースのオンラインストレージ「Nextcloud」の組み合わせが最初の候補になりました。 

さくらインターネットグループのビットスター社から上記の提案を受け、触ってみたところ、すぐに「これならやれそうだ」と感じました。時間も人員も限られるなかでは「簡単に、すぐできる」が重要だったのです。さくらのクラウドとNextcloudの組み合わせは非常にシンプルで、試しに自分でサーバーを立ててみたところ、1週間もかからずに環境ができました。求めていた機能がすぐ実現できる手軽さとスピード感が決め手になって、採用を決定しました。 

複雑な権限管理をシンプルに実現でき、日々の運用も「面倒さがない」 

採用後の移行はスムーズでした。導入、環境構築、データの移動がすべて簡単で、 WorkDocs のサービス終了が間近にせまるプレッシャーのなかで、余裕をもってサービスの置き換えが完了し、大きな手戻りもないまま、安定運用につなげられました。本番環境の構築開始から実運用まで、3か月ほどだったと思います。 

課題だった権限管理も、まったく問題なく運用できています。「100超のアカウントを十数グループに分けてフォルダごとに細かくアクセス権を設定する」という作業ですが、直感的に使えるため、私ともう1人のスタッフの2名体制ですべてを管理できています。日々の運用における業務負荷が軽く、「面倒ではない」という状況は、少人数のチームにとって非常に重要なことなので、とても満足しています。 

また、前サービスではアカウント数で費用が変わったため、思うようにアカウントを増やせないジレンマがありました。しかし現在は月額で料金が固定されているため、予算管理が容易になり、事務的な負荷も軽減できました。 

ファイル共有サービスの背景画像。ビットスターとさくらインターネットのコーポレートカラー(グリーンとピンク)が使用されている(提供:QST) 

まず触ってみて、最初の手応えをつかんでほしい 

もし、同じように限られた時間や人数で、何か新しいシステムを導入しないといけない、という状況の方がいらっしゃったら、まず「とにかく一度、自分で触ってみる」をおすすめしたいです。 

われわれのケースでは、海外ベンダーの大きなサービスも選択肢にはありましたが、機能が多すぎて、それを一つひとつ検証している時間も人も足りませんでした。今回、パッと試してみて、すぐに「これならできそうだ」という手応えがつかめたことが、結果的に一番の近道でした。 

自分たちのやりたいことが、いかに少ない手間で、直感的に実現できるか。また、信頼できるパートナー企業の伴走があると、導入のスピードも安心感もまったく違うと思います。 

われわれも、 NanoTerasuを共同利用してくださる研究者や事業者の方々に伴走して、産業イノベーションを手伝っていきたいと考えています。2024年4月の運用開始から1年強(取材時点)で、加速器の稼働率は、安定してほぼ100%です。現時点では国内の最新設備であり、SPring-8など、これまでの国内施設で培われた「安定運用のノウハウ」という無形の資産を活かせているのだと思います。仙台駅から10分程度というアクセスの良さも魅力です。世界最高性能の実験が、計画通りに安心して実施できる。この価値を、多くの研究者に届けたいと思っています。 

今後は実験データのクラウド活用も重要になるでしょう。研究データを広く活用するにあたって、画像や動画のニーズは高まっていくはずです。近隣の大学との連携も深め、観測と研究、データ解析までまとめた研究のエコシステムを東北に構築できると考えています。データが増えれば、時間や距離の制約を超えたシミュレーション空間での研究も可能になるのではないでしょうか。 

 NanoTerasuの機能とネットワーク、データ活用のプラットフォームは、さまざまな「もの」や「こと」をつないで、新しい価値を生むものになると考えています。その信念のもと、これからの日本の科学とイノベーションへ貢献していきたいです。 

※掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

導入のご相談(無料)
構成についてのご相談や、詳しい料金のご案内をご希望の方は
お気軽にお問い合わせください。
ご相談はこちらから
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)
事業内容
量子ビーム・放射線・核融合などの最先端研究を通じた、医療・ライフサイエンス・ナノテクノロジーなどへの応用と社会実装の推進
設立
2016年

導入事例集

さくらインターネットのサービスを
導入・活用いただいている
お客様の事例をまとめた資料を配布しております。

無料ダウンロード

導入のご相談(無料)

構成についてのご相談や、
詳しい料金のご案内をご希望の方は
お気軽にお問い合わせください。

ご相談はこちらから